草の大地に生きる — 北海道・足寄町の酪農家吉川友二さんと放牧酪農の魅力
北海道の足寄町。深い森を抜け、青い牧草が風に揺れる広大な牧場が広がるこの場所で、一人の酪農家が放牧酪農に命をかけてきました。その名は吉川友二さん。長年、牛たちと共に広大な大地を耕しながら、放牧酪農の第一人者として、その技術を後世に伝えてきました。しかし、運命は容赦なく、彼に試練を与えました。1年前、すい臓がんと告知され、引退を決意せざるを得なくなったのです。
放牧酪農の魅力とは、一般的な酪農とは異なり、牛を広い牧草地で自由に放し、自然の力を最大限に活用する方法です。吉川さんは、ニュージーランドで放牧酪農を学び、その技術を北海道の足寄町で実践しました。広大な土地に牛を放牧し、牧草を最大限に活用して作られる牛乳は、その風味が豊かで、何とも言えない深みを持っています。
世界一のチーズを目指す情熱
吉川さんの牧場には、チーズを作る工房もあります。本間幸雄さんはその工房を営み、吉川さんの牛乳で作るチーズが世界的に高評価を得ています。2022年、二人のコラボレーションによって生まれたチーズが、世界最高のチーズコンテストで最高賞を受賞しました。牛乳の風味を生かした本間さんのチーズは、フランスの「コンテ」という伝統的なハードチーズに影響を受けつつ、独自の風味を持っています。
チーズ作りは、牛乳の細かな変化を見逃さず、それを的確に反映させることが求められます。本間さんは、日々の観察と経験を基に、牛乳の水分を調整し、最適なタイミングでチーズ作りを行っています。その努力の結果、世界のチーズ業界でも注目を浴びる存在となっています。
吉川友二さんの決断と家族の絆
しかし、吉川さんに襲った突然の病。膵臓がんの診断を受けたことで、牧場の未来がどうなるのか不安が広がりました。彼の息子である元さんは、フランスでパティシエを目指していたが、牧場を守るために急きょ帰国し、酪農家としての道を歩み始めました。父から教わること一つ一つを真剣に受け止め、苦難を乗り越えていこうとしています。
吉川さんの言葉が心に残ります。「酪農家は自然相手だから、何を感じ、どう行動するかが重要だ。」元さんはその教えを胸に、酪農家としての仕事に全力で取り組んでいます。
未来へとつなげる放牧酪農
北海道の広大な大地で、吉川さんは「自然とは何か」を問うてきました。放牧酪農は、ただ牛を育てるだけではなく、大地と牛、草との調和の中で、持続可能な農業を目指すものです。彼の旅路は簡単ではありませんでしたが、今、彼の情熱は息子へと受け継がれ、これからも足寄町の牧場で命を育み続けることでしょう。
吉川さんとその家族が描く酪農の未来、その情熱と誇りを私たちも共に見守っていきたいと思います。